焙煎士ギルド伝承──ペーパードリップの術

 
 

焙煎士ギルド伝承 ― ペーパードリップの術

      

「自らの館で、美味しき一杯を淹れんとすれど、どうしても思うようにいかぬ……」
そんな嘆きの声を、焙煎士ギルドは幾度となく耳にしてきた。

だが安心されよ。真に必要なのは特別な秘技ではなく、五つの要点を守る心構えのみ。
これを修めれば、誰しも香り高き一杯を手にできるであろう。


其の一 豆の分量を正しく量ること

基礎は「お湯:100ccに対して豆:10g」。マグカップ1杯(約300cc)なら30g、2人分(約600cc)なら60gが目安となる。

手元の匙が何gか、確かめておくとよい。また、いつも使う珈琲杯(珈琲カップ)を用いてあらかじめ抽出量を図っておくことをすすめる。(常に同じ珈琲杯を用いるなら、最初に1度だけ量ればよい)


其の二 炎と水の調律──理想の湯温は90℃

まず水を沸かして邪気(カルキ)を祓い、その後金属製の珈琲ポットへ移す。
金属製のポットに移せば、およそ1分くらいで、抽出に最適な温度、90℃前後となる。温度計を持たずとも、簡単に適温を得られるものなり。

湯量を操るには、注ぎ口の細きポットを携えるがよい。


其の三 蒸らしの刻──香気を解き放つ

粉全体に少量の湯をそっと注ぎ、三十数える間待つべし。この「蒸らし」が旨味を呼び覚ます鍵。
立ちのぼる芳香を味わいつつ、泡が落ち着くのを見届けよ。


其の四 注ぐは中心のみ、数度に分けて

蒸らしが終われば、いよいよ本抽出。
湯は粉の中心に、五百円玉ほどの円を描きて静かに注ぐ。
ただし、雑味の元となるゆえ、決して外周や紙に湯をかけてはならぬ。

また、最後の一滴まで滴らせることも禁忌。
先に決めた抽出量を得たら、必ず、ドリッパーを外すべし。 最後の一滴まで落としきっては、不快なエグ味を呼ぶからである。


其の五 己が舌で真実を知れ

違いを確かめるには、この小さき実験を試すとよい。

  1. 正しき方法で淹れた珈琲を二杯用意する。
  2. 片方に「最後まで落としきった珈琲」をひと匙だけ加える。
  3. 飲み比べよ。

必ずや、後味の雑味の差に驚かされるだろう。これぞ「最後まで落としきらぬべし」という掟の理由なり。


🏰まとめ:技を習得すれば、誰もが美味なる一杯を淹れられる

汝に授けた秘術は、特別な魔導の才なくとも実践できる。
ただし――聖なる湯を注ぐ所作のみは、わずかに鍛錬を要するであろう。
されど心配は無用。幾度か試みれば、大半の冒険者はすぐに極意を会得するはずだ。

自らの館(やかた)に居ながらにして、名高き珈琲亭にも劣らぬ味と香りを堪能できるであろう。
勇敢なる者よ、ぜひ己が至高の一杯を探し当てよ。

※ 抽出の所作がわかりにくき場合は、次なる電影の魔道具が役立つであろう。

   
         

雫の章 第二話:香味錬成の術 ― 湯温が導く味の変容 を読む
雫の章 トップへ戻る
珈琲叙事詩のトップに戻る